相続法の改正について

 相続法が改正されました。昭和55年の改正以来、約40年ぶりの見直しです。

 この40年の間に我が国の平均寿命は延び、少子高齢化が進み、高齢者間の再婚が増加する等、社会情勢に大きな変化が見られました。

 また、平成25年9月4日には、最高裁判所大法廷において、嫡出でない子(婚姻していない男女間に生まれた子供)の相続分を嫡出子(婚姻している男女間に生まれた子供)の2分の1と定めていた当時の民法の規定が憲法第14条第1項に違反するとの判断が示されました。

 これを受け、同年12月に「民法の一部を改正する法律」が成立しましたが、その議論の過程で、配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から相続法を見直すべきとの提案がありました。

 そして今般、相続法(民法)が改正されました。

 下記<改正の内容>を、各項目で、一般の方にも分かりやすいようにご紹介したいと思います。

 

<改正の内容>

1.配偶者の居住権を保護するための方策

 1 配偶者の居住権を短期的の保護するための方策

 2 配偶者の居住権を長期的に保護するための方策

2.遺産分割に関する見直し等

 1 配偶者保護のための方策(持ち戻し免除の意思表示の推定規定)

 2 遺産分割前における預貯金の払戻し制度等の創設・要件明確化

 3 一部分割

 4 遺産分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲

3.遺言制度に関する見直し

 1 自筆証書遺言の様式緩和

 2 自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度の創設

 3 遺贈の担保責任等

 4 遺言執行者の権限の明確化等

4.遺留分制度に関する見直し

 1 遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し

 2 遺留分の算定方法の見直し

 3 遺留分侵害額の算定における債務の取り扱いに関する見直し

5.相続の効力等(権利及び義務の承継等)の取り扱いに関する見直し

 1 相続による権利の承継に関する規律

 2 相続による義務の承継に関する規律

 3 遺言執行者がある場合における相続人の行為の効果等

6.相続人以外の者の貢献を考慮するための方策

預貯金の払戻しについて

 ご親族がお亡くなりになって、その方の銀行等の預貯金が凍結されて、遺産分割協議が終わるまで払戻しができなかった…。

葬儀費用の工面も大変だった…。

等のご経験がおありかもしれません。

 相続法(民法第909条の2)が改正(令和元年7月1日施行)され、各金融機関毎に、預貯金額の3分の1に各相続人の法定相続分をかけた金額(上限150万円)までは、各相続人が単独で払戻しできるようになりました。

 遺産分割協議に時間がかかる場合に、利用するメリットがありますね。

 必要書類や手続の方法が異なることがありますので、詳細は各金融機関にお問い合わせください。

改正後の本条の規定は、施行日前に開始した相続についても適用されます。

つまり、現在お困りの方はご利用を検討ください。

 なお、法定相続情報証明(相続人全員の戸籍の束を1枚の証明書で代用できる制度)を手配すると、金融機関での待ち時間も減り、ご負担が少なくなると思います。
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000013.html
法定相続情報証明制度 法務局

 

相続人でない親族の特別の寄与について

 たとえば、長男の妻が、同居する長男のご両親を誰よりも親身になって介護するという事はよくある(あった?)話です。

 しかし、今まではどれだけ献身的に頑張っても、相続人でないその妻が、直接に寄与料を請求することはできませんでした。

 条件はいくつかありますが、改正相続法(民法1050条)により、相続人でない親族も相続人に対して、その貢献に応じた額の金銭(特別寄与料)を請求できるようになりました(令和元年7月1日以降の相続について)。

 商売をされているお家に嫁いで、献身的に寄与された方などは、この改正相続法で、その努力が報われる可能性がありますね。

 

自筆証書遺言に関する法改正について

 

 自筆証書遺言とは「手書きの遺言」の事です。

 たとえば、ご本人が手書きで遺言しても、法律上の要件を満たさない内容(日付がないとか)で無効になってしまったり、有効でも発見されなかったり(発見した親族が内容を見て破棄することもあり得ます。)して、本人の遺志が実現しないことが多々ありました。

 そこで、新しい相続法は自筆証書遺言について改正を行いました。

 一つ目は、財産目録は手書きじゃなくてもいいですよ、という改正です(施行済み)。
これは、ワープロ書きのリストや預金通帳のコピー、登記簿謄本で代用しても良いですよという内容です(しかし、要件があるのでご注意を。)。

 二つ目は、自筆証書遺言(手書きの遺言書)を遺言書保管所(法務局)が保管するという制度です(令和2年7月10日施行)。
相続人が「お父さん(お母さん)が遺言してませんでしたかねー?」と法務局に問い合わることもできます。
 自筆証書遺言で最も面倒だった「検認(相続人全員の戸籍と住民票を添付して、家庭裁判所に申し立てて行う手続き。)」が不要というメリットもあります。

*但し、家庭裁判所への検認手続と同じだけの書類を準備する必要があります。

 だから私は、公証人による「公正証書遺言」の作成をお勧めします。

 司法書士の得意分野は「予防司法(トラブルが生じないように予め対処しておくこと)」です。

 事後司法(残念ながら、トラブルが生じてしまってからする争いの対応)は、ほぼ弁護士さんにお願いすることになるでしょう。

 遺言して、「愛するお子様たちの間で、不要な争いが起こらないようにする!」のも、残される者たちに対する愛ではないでしょうか。

 

配偶者(長期)居住権の創設について

 夫婦仲よく暮らしていた自宅なのに、名義人の夫が亡くなったとたんに追い出されてはたまりませんよね。

 そこで、夫婦で暮らしていた自宅に、その配偶者が住み続けることができるよう、法改正がなされました(令和2年4月1日施行)。

 要件は次の通りです。

①配偶者が、相続開始の時に、遺産である建物に居住していたこと。

②当該建物が、被相続人(亡くなった方)の単独所有あるいは配偶者と二人の共有であったこと。

③当該建物について、配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割、遺贈(遺言による贈与)又は死因贈与がされたこと。

 なお、内縁の配偶者は含まれません。

夫婦同様のパートナーの方は、これを機に、入籍のお話をされるのも宜しいのではないでしょうか。

*配偶者「短期」居住権も創設されました。

配偶者(短期)居住権の創設について

 夫婦仲よく暮らしていた自宅なのに、名義人の夫が亡くなったとたんに追い出されてはたまりませんよね。

 そこで、夫婦で暮らしていた自宅に、その配偶者が「しばらくは」住み続けることができるよう、法改正がなされました(令和2年4月1日施行)。

 遺産分割によりその建物の帰属が確定した日、又は相続開始時から6か月を経過するまでのいずれか遅い日までは、配偶者が現住居に住み続けることができます。

 要件は次の通りです。

①法律上の配偶者が、

②相続開始の時に、遺産である建物に、無償で居住していたこと。

③当該建物が、被相続人(亡くなった方)の単独所有あるいは配偶者と二人の共有であったこと。

 なお、内縁の配偶者は含まれません。

夫婦同様のパートナーの方は、これを機に、入籍のお話をされるのも宜しいのではないでしょうか。

*配偶者(長期)居住権についてもご参照ください。

 

「遺留分減殺請求権」が「遺留分減殺額請求権」になりました

「遺留分」って何?

 たとえば、子供3人(A、B、C)と奥さんがいる場合に、遺言で「長男(A)に全財産を相続させる。」とされた場合でも、子供(B,C)と奥さんに最低限認められる相続分です(改正前から、兄弟姉妹相続の場合は遺留分はありません)。

 改正後は遺留分を金銭で請求できると規定されました(改正民法第1046条)。

 改正前は、遺留分減殺請求がされると不動産が共有になり(物権的請求権)、解決が困難でした。

 今後は金銭で請求できるので(債権的請求権)、実務の対応が大幅に変わりそうです。

 遺留分侵害額請求権は、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間」「相続開始の時から10年間」で時効消滅します。

 なお、改正前は遺留分減殺請求した後は(物権的請求権だったので)時効消滅しませんでしたが、改正後に遺留分侵害額請求した場合は(債権的請求権なので)、5年で時効消滅してしまいます。

 何いってるんだ?

と思った方。

 法律とはこんなものでありまして。

 

遺留分を計算してみましょう

 遺留分とは各相続人に最低限保証される相続分の事です(兄弟姉妹間の相続にはありません)。

 前項で遺留分の規定に関する法改正についてご紹介しました。

 では、自分の遺留分額はいくらなのか?

それが重要な問題でしょう。

 では、事例で計算してみましょう。

新法1046条2項によると次の計算式になります。

遺留分侵害額=(遺留分の算定の基礎となる財産の額(A))×(相対的遺留分率(B))×(法定相続分率(C))-(遺留分権利者の特別受益の額(D))-(遺留分権利者が相続によって得る積極財産の額(E))+(遺留分権利者が相続によって負担する債務の額(F))

 <事例>

被相続人(亡くなった方)A
相続人(妻)X
相続人(子)Y
相続人ではない人B
AがYに全財産を相続させるという遺言を残した場合

遺産総額1,000万円
亡くなる10年前、Yに事業資金6,000万円を贈与していた。
亡くなる半年前、相続人でないBに1,000万円の贈与をしていた。

Xの遺留分額侵害額=(1,000万円+1,000万円+6,000万円(A))×1/2(B)×1/2(C)-0円(D)-0円(E)+0円(F)=2,000万円

(遺言では貰う物はないはずだけれども)Xは2,000万円はくださいと請求できる、これが遺留分という権利のことです。

 

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