遺産承継業務

遺産承継業務とは

 遺産承継業務とは

 亡くなった方名義の遺産がある場合、その遺産を承継する業務があります。

 

 想定できるのは次の4つの場面です。

1.依頼者との委任契約に基づく遺産承継業務
2.遺言執行業務
3.不在者財産管理業務
4.相続財産管理業務

 これから順次ご紹介していきたいと思います。

 

 例えば、上記1の依頼者との委任契約に基づく遺産承認業務とは?

 

 <事例>


 子どものいない夫婦の夫が亡くなりました。
その妻からの相談です。
亡き夫の遺産は自宅と預貯金です。
亡き夫には兄弟がいます。そしてその兄弟の内の一人も亡くなっていて、承継者は甥と姪がいます。
依頼者の妻は、亡き夫の兄弟とは付き合いがなく、甥姪とは会ったこともありません。
亡き夫の遺言はありません。
相談者の妻は高齢で、相続手続きはおろか、知らない亡き夫の甥姪に連絡することも怖くてできません。

 

 司法書士は、そんな亡き夫の妻から相談を受けることがあります。

さてその場合、司法書士はどんな活動をするのでしょうか。

 

 司法書士の遺産承継業務をご紹介します。

 

相続争いが表面化していない場合「中立型調整業務」を試みます

「中立型調整業務」とは、相談者である亡き夫の妻も含め、「特定の相続人の代理人ではない、すべての相続人の調整役」という立場で、遺産分割協議の合意成立に向けて関与する業務です。

 つまり、相続人全員と「遺産承継業務委託契約」を締結し、遺産を管理しつつ、必要に応じて遺産分割協議の合意を支援するのです。

具体的活動としては、

①相続人確定のための戸籍調査
②相続財産調査(①と並行して)
③相談者以外の相続人への連絡
④相続人全員から遺産承継業務を受託
⑤各相続人の意見調整
⑥遺産分割協議
⑦遺産分割手続き
⑧各相続人へ完了報告

 

上記①~⑧を本件にあてはめますと、次の1~5の流れとなります。

1.亡き夫の妻から依頼を受け、相続人確定のための調査と、相続財産の調査を行う①②。

2.妻以外の相続人(A b1 b2)へ、相続が発生し皆が相続人である旨、遺産の内容と評価概算、相続人全員からの依頼がある場合は(案内を出している)司法書士が調整役として受任する旨、を通知する③。

3.相続人全員(妻 A b1 b2)から遺産承継業務を受託し、各相続人の意見を調整する④⑤。

4.相続人全員の意見がまとまると遺産分割協議を行い、遺産分割協議書の通りに遺産を分配する⑥⑦。

5.すべての遺産分割手続きを完了し、各相続人へ資料を添えて完了報告をする⑧。

 

 大枠として、こんな流れをイメージしてください。

 

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遺産承継業務とは

遺産承継業務とは

 遺産承継業務の途中で相続人がもめてしまったら

事例

 Yが亡くなり、妻Xと子Aが相続人です。

Aは身体障碍者で、Xが身の回りの世話をしています。

 司法書士としてYの遺産を承継するため、Xから依頼を受けました。

遺産は自宅不動産と預貯金です。

当初の相談内容では、XとAで法定相続分である2分の1づつ相続することで合意できているとのことでした。

 司法書士はAの意見も聞き調整を図りました。

ところが、最初は仲良く話し合いができていたのに、途中でAから異議が出て、相続人間での話し合いができなくなってしまいました。

 受任した司法書士はどのような対応をすべきでしょうか?

 

解答
  相談者にはなかなかご理解いただけませんが、専門家の職責として、受託できない案件となってしまいます。

相続人全員から依頼を受けて相続手続きを受託したケースです。

相続人全員が遺産承継内容について合意できている場合、依頼を受けた司法書士は、相続人全員からの委任を受けて、遺産承継業務を受任できます。

*この時点で相続人間に争いがある場合は、遺産分割調停等、別の手続きを選択します。

 このように、当初相続人全員からの依頼を受けて遺産承継業務を受任したとしても、その後相続人間で争いが生じた場合は、

受任した司法書士は、当初の依頼者以外に、争いが生じたその他の相続人からの相談も受けしまったことになります

 つまり、どの相続人の立場に立っても、相手方の立場に立てば「利益相反」することになります

 結論としては、当初の相談者からの依頼も含め、本件に関しては、全ての依頼を断らなければなりません

 

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遺言執行者とは

 せっかく遺言書を残しても、その内容が実現されなければ意味がありませんよね。

そこで、「遺言の内容を実現する事務を行う者」が必要となるのです。

その者のことを法律上「遺言執行者(いごんしっこうしゃ)」とよびます。

 

 遺言執行者は遺言書の中で指定されます

遺言書の中で指定がない場合は、家庭裁判所に申し立てて遺言執行者の選任をしてもらうか、相続人全員で共同して遺言執行事務を履行することになります。

 

 遺言者は、自分の遺言書の内容通りに、遺産分割をして欲しいと願っているはずです。

そんな遺言者の「最後の想い」を託された、「遺言執行者」のお話をしたいと思います。

 

 遺言執行者は「遺言の内容を実現するため」(民法1012条第1項)活動します。
*つまり、必ずしも相続人の利益のために職務を行うものではありません

遺言執行者がいる場合に、相続人が行った遺言の執行を妨げる行為は、原則「無効」となります(民法1013条第2項)。

また、遺言執行者がいる場合には、遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができます(民法第1012条第2項)。

 

 遺言執行事務の大まかな流れですが、次のようになります。

 

①各相続人へ、遺言の内容と遺言執行者に就任した旨の通知
       ↓
②全財産の調査・把握をして財産目録を作成
       ↓
③遺言による財産の処分・承継に伴う登記・登録の名義変更や債権者・債務者に対する通知
       ↓
④対象財産の相続人等への引渡し
       ↓
⑤必要に応じ遺産の管理・保管など

 

 遺言者は、自分の遺言書の内容通りに、遺産分割をして欲しいと願っているはずです。

そんな遺言者の「最後の想い」を託されたのが「遺言執行者」なのです。

 

*令和元年7月1日施行の民法により、遺言執行者に関する規定が詳細に整備されています。

 

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