生活保護制度とは

生活保護制度とは

 成年後見業務をしていると、本人の収入だけではどうしても生活していけないような方を担当することがあります。

ある福祉事務所の職員に相談すると、「よっぽどの状態じゃないと生活保護は受けれませんよ。」と、冷たくあしらわれたことを思い出します。

 

 「・・・わかったことは、弁護士だけでなく国民の多くが、いや自治体の生活保護担当職員でさえ、「生活保護法」を正しく理解しておらず、生活保護に対する誤解と偏見を持ち、生活保護利用者自体もそのような誤解を抱いていたという事実であった。」(「生活保護法的支援ハンドブック」日本弁護士連合会生活保護問題緊急対策委員会編 より抜粋)

 

 貧困に陥る原因は多様であり、「傷病・障害、精神疾患等、DV、虐待、多重債務、アルコール等の依存症等」の様々な問題が背景にあり、また相談に乗ってくれる人がいない等、社会的なきずなが希薄な状態もあります。

 

 一方、福祉事務所のケースワーカーは担当するケースが100件以上に上ったりして、物理的に「法の趣旨通りには」対応できない状態であるとも聞きます。

なお、ケースワーカーの業務は、条件に当てはまった人に生活保護費の受給をすることだけではなく、本人の自立を支援するため、自宅へ直接訪問する等、継続した対応が必要であるため、極めて多忙であるという実情があります。

 

 また、生活保護費の4分の3は国費から支給されますが、残りの4分の1は、本人の住所地の地方自治体が負担しますので、地方自治体としては不正受給を防止しなければなりません。

 

 冒頭に紹介した、「よっぽどの状態じゃないと生活保護は受けれませんよ。」という福祉事務所職員の発言の理由が、上記のいずれであるのか、確認してみたいと思っています。

 

<参考>

生活保護法第1条 
この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。

 

 福祉事務所の実際は、

研修時間のなさから、ケースワーカーの訓練が実務から学ぶことに偏っており、ベテランケースワーカーに相談しながら難問に対処しているようです。

しかし、ベテランがいない福祉事務所では、扶助の決定判断が、未熟な担当ケースワーカーの考え次第となりうる要素は否定できません。

 

 その意見に対しては、「福祉事務所内で組織的に決定している。」と反論されるのですが、

福祉事務所内でその問題を提起するのは担当ケースワーカーしかいないのですから、そのケースワーカーが問題意識を持っていないならば、組織的決定の検討議案にも上がらないことになります。

また、福祉事務所職員の離職率の高さも指摘されています。

 

 先ずは、扶助する側の立場になって、福祉事務所では精一杯の努力をしているという事を、お知らせしました。

 

生活保護制度に関する誤解と偏見について

  ケースワーカーの苦悩について、現場担当者の立場からのご紹介をしました。

今回は、生活保護制度に関する「誤解と偏見」について、お話ししたいと思います。

 

 実は、巷で良く聞く噂のほとんどが、「デマ」でなのです。

 例えば、

「住居が決まっていないから生活保護は受けられない?」
「借金があるから生活保護は受けられない?」
「自宅があるから生活保護は受けられない?」
「生活保護を受けている者は怠け者である?」
「不正支給を受けてベンツを乗り回す生活保護利用者がいる?」

 

 これらの「デマ」は、生活保護利用者全般に対する「蔑みと差別意識」の存在の表れなのです。

 

 自立に向けて努力しているが、「ダメだ、今はどうしても助けて欲しい。」と思った人は、「堂々と」利用すべき制度です。

憲法第25条は、そんな方々を「国が守る」と保障しているのですから。

 

 世間、いや、むしろ身近な人々の冷たい言葉を受け「自死」を選んでしまう「真面目過ぎる国民」が多すぎるのです。

 

 市町村のケースワーカーへ、あなたの苦悩を知った上で申し上げます。

「あなたしか」助けてあげることができない人がいます。

 頑張ってください。

 お願いします。

生活保護制度に関する具体的事例

 今回は判例等も交えて、判断の分れた保護事例をご紹介したいと思います。

 

 生活保護法第4条では「保護の補足性」について規定されています。

 

 生活保護制度における「補足性の原理」とは、生活困窮に陥り自らの力では健康で文化的な生活をすることが困難なときに、健康で文化的な生活をするために不足する分を保障することを意味します。

 例えば平成6年には、埼玉県桶川市のケースワーカーが、79歳の高齢者に「クーラーを外さなければ生活保護を廃止する」と指示し、その指示に従いクーラーを取り外したところ、その高齢者が熱中症になり入院しました。

この件は新聞報道があった5日後に、世論の批判を受けた市がクーラーの保有を認めました。

 

 また、色々と争いのある自動車の保有についてですが、

 

 厚生労働省の取り扱いは、まず自動車を「事業用品としての自動車」と「生活用品としての自動車」とで区分し、「生活用品としての自動車」は原則的には認められないとしながらも、保有を容認しなければならない事情がある場合もあるとしています。

 

 資産性のない自動車であっても、車検費用やガレージ費用等、その維持管理に多額の費用がかかりますから、資産性がないという理由のみで認められるわけではありません

 

 また、自分の名義ではないからと言って、自家用車として利用していたケースでは生活保護が廃止されました(福岡地方裁判所平成10年5月26日(判例タイムス990号157頁))。

 

 しかし、自家用車を「処分するよりも保有して活用する方が生活維持及び自立助長に実効性があり、維持費等の経済的支出が社会通念上是認できると認められるような事情があるかという観点からその保有の可否が検討されるべきである。」
(大阪地方裁判所平成25年4月19日(判例タイムス1403号91頁))という判断が主流と思われます。

 

 つまり、公共交通機関を利用することが困難であり、通院や通勤に自家用車が不可欠であることを、積極的に主張すべきであると思います。

 

 ちなみに、ケースワーカーから「タクシーを利用しなさい」と指示されたケースでの訴訟では、「公共交通機関」にタクシーや介護タクシーは含まれないとした判例があります。(福岡地方裁判所平成21年5月29日(賃金と社会保障1499号29頁)大阪地方裁判所平成25年4月19日(判例タイムス1403号91頁))。

 

 つまり、生活保護に関しては、「その市町村の福祉事務所の裁量」で大きく結果が左右されているのが現状です。

 

 窓口の対応に「どうして?」

と思ったら、

諦めてはいけません。

 

生活保護制度に関する具体的事例2

<事例>

 生活に困窮した方が福祉事務所に相談に来ました。
福祉事務所の相談員は「親とか兄弟には相談しましたか?その後でないと生活保護の申請は受け付けませんよ。」と言って、生活保護申請書を渡しませんでした。 

 さて、この事例の問題点はどこにあるでしょうか?

 

現行の生活保護法では、扶養を生活保護利用の要件とはしていません

(例えば、唯一の親族と絶縁していて、扶養してくれる見込みがない場合等を想像してください。)

 

 旧生活保護法は「国の施し」と位置付けていましたが、現行生活保護法では生活保護利用請求を「国民の権利」としています

法律上、福祉事務所職員は、申請権を有する者から申請の意思が表明された場合には、申請書を交付しなければなりません

 

 「扶養義務者と相談してからでないと申請を受け付けない。」とか、「収入の資料が提出されてからでないと申請を受け付けない。」等の対応は適切ではありません。

なお、書面だけではなく、口頭での申請も法は認めています

 

 福祉事務所に来る相談者の全てが、生活保護制度について理解しているわけではありませんから、そんな相談者に、福祉事務所の職員は生活保護制度について説明する(教えてあげる)義務があります。

 

 「制度を適切に機能させるためには、本人の申請権を侵害してはならないことはいうまでもなく、申請権を侵害されていると疑われるような行為も厳に慎むべきことに十分留意する必要がある。」(厚生労働省「生活保護手帳 別冊問答集2016 349頁」)

 

 相談窓口で申請書も渡されずに追い返されたなら、

福祉事務所の対応が「違法」である可能性が高いという事を、お知らせしました。

 

不正支給等があった場合には

 生活保護受給者が保護費の返還を請求されることがあります。

 

 返還請求される理由には2種類ありまして、

1.一つは「急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたとき」(生活保護法第63条)。

 例えば、生活保護受給中に相続を受けたり、交通事故に遭って慰謝料を受けたりしたような、不当に生活保護を利用しようとしたのではないケースです。

 こちらは、全額返還させることが、その世帯の自立を著しく阻害することになると認められる場合には、種々の控除が認められており、場合によっては返還する金額が「0円」となることもあり得ます。

 

2.もう一つは「不実の申請その他の不正手段により保護を受けたとき」(生活保護法第78条)。

 例えば、生活保護を不正に利用しようとした場合や、申告すべき収入の事実を申告しないこと等のケースです。

 こちらは不正受給額に100分の40を乗じた額を加算して返還しなければならなくなることもあります。

 生活保護受給世帯に子どもがいて、その子供がやがて高校生になってアルバイト収入を得るようになったが、その収入申告をしなかった時も、第78条の不実の申請等に該当します。

ケースワーカーが「かわいそうだから」とアルバイトした高校生に同情して第63条の処理をした事案がありますが、厚生労働省がその福祉事務所の対応を不適切として、第78条を適用するように指導しています。

 

 生活保護制度について色々お話ししましたが、厳正に、法が適用運用されていることを、ご確認頂けたと思います。

あなたはまだ、「生活保護を利用しながらベンツを乗り回してるやつがいる!」なんていう「デマ」を信じますか?

 

 生活自立支援とは

 勘違いがありますが、

手元に入ったお金がすべて収入認定されてしまうわけではありません。

 例えば、令和2年5月に始まっている「特別定額給付金」は全額収入認定されません。

つまり、生活保護支給額に全く影響はありませんので、必ず申請してくださいね。

 

 さて、生活保護利用者の「働けない」と「働かない」には様々な理由があります

実際に「働けない」(雇用してくれる就労場所がない等)場合もあり、この「稼働能力」は数値化し難く、評価が難しいものです。

 

 ちなみに「働かない」理由の一つに、生活保護利用者の勘違いがあります

「働いたら保護が直ちに廃止される。」とか「就労収入は全額収入認定されるから、働いても働かなくても手元に残るお金は同じ。」というような誤解です。

 

 勤労に伴う必要経費の控除など、様々な控除が定められていますので、働けばその収入の一部は手元に残ります。

その残った収入を冠婚葬祭費や、友人との交際費に充てても良いわけです

 生活保護利用者からすると「聞いてない」と言って憤り、
ケースワーカーは「説明したのに…」という虚しさや怒りを感じる場面でしょう。

 

 しかし、生活保護利用者の全てが一度の説明で理解できる人ばかりではありません。

ケースワーカー側も、仕事に対する意欲に個人差がありますよね。

 例えば、幼い子がいる相談者に対して「あなたのような母子家庭の人でもちゃんと自立している人たちはたくさんいますし、…、水商売もあるし。」などと述べて申請受理をしなかった例があります。
なお、この相談者は経験のないクラブ店に面接に行くなどした後に提訴しています。
(広島高等裁判所平成18年9月27日(LEX/DB文献番号28112456))。

 

 一方でケースワーカーの中には、保護しようとした人に、嘘をつかれたり暴言を吐かれたりした経験のある人もいるでしょう。

 

 しかし、ケースワーカーの皆さまには、要保護者の「自立助長(経済的自立、社会的自立、日常生活自立)」支援が生活保護の目的(生活保護法第1条)であることを思い出し、その担当されている尊い職務に尽力して頂きたいと願うのです。

 

 生活保護減額政策について

 生活保護費を減らせ?

という国の施策が行われています。

 皆様には関係のないことでしょうか?

では、生活保護費減額が及ぼすみなさまへの影響をご存知でしょうか。

生活保護基準は様々な基準と連動しています。

例えば「最低賃金」です。

生活保護費よりも少ない最低賃金はあり得ませんよね。

だから、生活保護基準が増額すれば最低賃金の増額も可能となります。

 その他は、住民税非課税世帯に対しての影響です。

生活保護基準が下がれば、今まで住民税非課税世帯っだった方々でも課税世帯となってしまうことがありますから、その方々は、収入は同じなのに支出が増えてしまいます。

その他にも、生活保護基準の減少は、国民健康保険料や保育料、介護保険料、高額医療費等の増額にも影響するのです。

それをご存知でしたか?

それでもあなたは生活保護基準に無関心でいられますか?

政府の生活保護基準引き下げ政策に対して反対しましょう。

誰もが貧困に陥る可能性があります。

貧困の出口にあるのが生活保護制度です。

生活保護制度の利用は国民に与えられた権利なのですから、

堂々と利用しましょう。

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