成年後見人の財産管理業務と空き家空き地問題について

居住用不動産の処分許可について

 成年後見人には本人の「財産管理、処分権」があります。

重要な財産については家庭裁判所に相談しながら処分します。

その重要な財産が「居住用不動産」の場合は、処分に家庭裁判所の許可が必要となります。

*「居住用不動産」とは、本人がかつて住んでいれば該当し、もう住むことがない家も含まれます。

 成年後見人の業務における「財産管理」は名前の通り「管理すること」であり、損害を生じないように管理しなければなりませんが、運用して資産を増やすことではありません。

(なお、本人の身上保護に必要なことのためには、積極的に支出すべきであるとされています。)

 その居住用不動産が都市部に存在し、流通するものである場合は、引手数多でありますから、複数の業者から見積もりを取り、その最高値を提示した買主に売却しています。

では、過疎地にあり「全く売れる見込みがない」不動産の場合であっても、家庭裁判所は同じ取り扱いをするのでしょうか?

本人が「タダでもいいから誰かにあげて使って欲しい」と言っているのに、何とかできないのでしょうか。

 成年後見制度を通して、1件でも多くの空家発生を防いで、地域の活性に繋がった事例をご紹介できたならと思うのです。

 「居住用不動産」の処分には家庭裁判所の許可が必要だというお話をしました。

そこで先ず、その居住用不動産処分許可の基準が、都市部の流通する不動産と、過疎地の流通しない不動産で同じなのでしょうか?

実は、京都府北部(過疎地域)にある宮津家庭裁判所での運用は、市街地と比べれば極めて格安の(市町村の)固定資産評価額程度を目安にして処分許可をしているようです。

(宮津家庭裁判所から、不動産を販売する際の広告には固定資産評価額以上の価格を表示するように指示されました。)

 財産管理業務の「管理」を厳格にとらえると、財産目録に記載した不動産評価額(固定資産評価額)を下回る価格で売却した場合は、単純に、下回った分だけ本人の資産を減らしたと理解されかねませんね。

しかし、親族やご近所からタダでもいらないと言われた不動産が固定資産評価額(例えば150万円)でも売れるわけがなく、不動産会社も全くやる気を出してくれません。

 このままでは空き家が朽ちて行き、雨漏りや風雪害により維持管理費がかさみ、この空き家の保全を理由とした本人の支出が増えることは目に見えています。

そして万一、倒壊等して近隣に危害を及ぼすようなことがあれば、本人の資産から損害賠償をすることになり、自己破産やむなしという結果もあり得ます。

本人保護を目的とする成年後見制度を利用したからこそ、本人のリスクを回避できた、という結果が出る方が正しい制度運用の姿だと思いませんか?

過疎地の不動産は固定資産評価額を大幅に下回る価格であっても売却できるようにすることが、本人の利益となる場合があります。

成年後見制度の活用を、空き家空き地問題対策や、地域活性化の議論とリンクさせていく必要があります。

 

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 成年後見人の善管注意義務と過疎地の不動産活用事情

 そもそも、過疎地域での不動産活用は難しいのですが、

そこに成年後見制度を利用したことで、さらに難しさがプラスされては、本人保護の制度趣旨からも本末転倒な話です。

 ちょっと法理論のお話しをしますね。

成年後見人には、被後見人の財産を適切に管理保存し、被後見人の財産を守る義務(善管注意義務)があります。

その点だけ見ると、本人の財産管理に善管注意義務を負う成年後見人が、不動産評価額を下回る価格で本人の不動産を処分しようとすること自体が、本人の資産を減らす背任行為と判断されてしまうことになりかねません。

しかし、この法理論をそのまま過疎地の実情に適用しても良いでしょうか?

 よくある例は、子どもたちがみな都会に住んでいて、地元で一人暮らしをしていた本人がとうとう施設に入り、自宅が空き家になってしまう場合ですが。

放置すれば日々朽ちて行き、維持管理費が負担となることが間違いないそんな家屋にも、その考え方をそのまま当てはめて良いでしょうか?

むしろ積極的に、その地域に移住したい人の住居として、その地域で空家を活用したい人の創造の場として、有効活用することを検討した方が良いのではないでしょうか。

建物所有者である本人も希望しているなら、ぜひそんな利用をし易くして欲しいですよね。

 「過疎地域での」居住用不動産の処分許可についての、都市部とは違う、難しい事情について整理すると、こんな問題点があります。

1.そもそも田舎の不動産は取引されることが少ない。

 この先利用されることのない空き家が処分できず、本人の負担で管理し続けなければならない。

2.成年後見制度を利用したがために、より不動産の処分がしにくくなる場面がある。

 ①売却のためにする広告に記載する売買価格が(裁判所の指示に従うため)実勢価格よりも高額になり、最初から流通に乗り遅れる。

 ②売れる見込みがないと思うのか、仲介する不動産業者のモチベーションが極端に低い。

 ③購入希望者が現れても、売買には家庭裁判所の許可が必要なので売買価格をその場で伝えられない。

それでも成年後見制度を利用した方が、空き家空き地問題対策にも寄与することになると思います。

 「過疎地域での」居住用不動産の処分許可についての、都市部とは違う、難しい事情をお知らせしました。

それでも、成年後見制度を利用した方が良いと申し上げた1番の理由は、「本人以外の関係者がその不動産(空き家)の管理処分を検討し、アクションを起こしてくれる」機会が増えることにほかなりません。

 空き家発生の大きな原因の一つとして「本人(所有者)の死亡後、相続人等が放置する(全く対応しない)」があります。

しかし、本人に成年後見人等が選任されていると、

1.本人の生前に成年後見人等が相続人等と連絡を取り、空き家発生のリスクを伝えることができる。

2.本人の生前に売却できる可能性がある。

3.本人の死亡後は、(元)成年後見人等が相続人等に状況を伝えた上で空き家を含む遺産の引継ぎを行う機会がある。

4.万一、相続人全員が相続放棄して遺産の引継ぎができない場合には、本人の(元)成年後見人が「相続財産管理人の選任」を家庭裁判所に申し立て、不動産の管理を法的に引き継ぐことができる。

5.4で選任された相続財産管理人が空き家の管理処分を行う。

 上記の通り、本人に成年後見人等が選任された場合の空き家と、何も対策がされずにただ放置された空き家とでは、随分意味が違うと思いますが、いかがでしょうか?

市の担当者からは「(空き家問題対策としては)即効性がない」と言われてしまいましたが…、

今の空き家増加の現状を鑑みると、即効性(劇的に空き家数を減らすこと)だけではなく、一つでも新たな空き家の発生を防ぐ対策も、必要なのではないのかな?

と思うのですが…。

 

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 成年後見制度と空き家活用について

 前回は、「過疎地域での」所有者に成年後見人等が選任された場合の空き家と、何も対策がされずにただ放置された空き家とでは随分意味が違う、というお話をしました。

成年後見制度を利用している方が(元)自宅を売却する場合には、家庭裁判所の許可が必要というお話をしました。

その許可が必要な理由が「本人保護のため」であることもお伝えしました。

そして、その許可が裁判官の裁量にゆだねられているというお話もしました。

 つまり、許可申立ての際に、裁判官を説得する資料を準備することができたなら、評価額以下(場合によっては数万円)での売却が可能であると考えています。

具体的には、裁判官に次のことを伝えて、処分許可すべきだという内容を上申します。

1.本人(所有者)が施設に入所して空き家となった(元)自宅は急速に傷み、朽ちて行くだけであること。

2.つまり、近い将来に本人(所有者)に、元自宅である空き家に掛ける修理費等の負担が増えることが間違いないなく、本人の支出が増えるということ。

3.さらに、管理が行き届かないので、風水雪害によって空き家が倒壊する等して、近隣から損害賠償請求を受ける可能性が時間の経過と共に高まるということ。

4.相続人等もその不動産を相続する考えがなく、本人の死亡後に放置される可能性が高いということ。

5.上記により、不動産売買価格は評価額を下回ってもやむを得ないということ。

上記にかかる費用の見積書等を提出するのです。

 しかし、最後にクリアしなければならないことがあります。

本人の収入と預貯金が少なく、現在の生活費以外の支出が困難で、申し立ての準備段階で諦めるケースがあります。

裁判所に提出する調査資料の作成のために、複数の専門家に動いて頂けねばならないのですが、そのための費用が工面できないのです。

 購入希望者が費用負担する話でしょう?
と思われるかもしれませんが、家庭裁判所の許可が出ないかもしれない、と思いながら調査費用を負担する人はまずいません。

現状は、「裁判所の売却許可が出るかどうかわからないんですが…。」「つまり、売買契約が成立しなかった場合は何のお礼もできないのですが…。」と、成年後見人が各業者さんに頭を下げまくって協力をお願いしています。

成年後見人として、非常にみじめに感じることもあります。

 そこでどうでしょう。

空き家空き地問題対策として各市町村は、空き家を購入した移住者に、建物改修費用等の補助金を支給していますが。

その仕組みの中に、空き家を購入するまでに必要となる経費を補助する制度を追加できないでしょうか。

 放置されて「特定空き家」に指定され、やがて行政代執行で取り壊される建物があります。

その費用は後日相続人達に請求するものですが、税金が利用されます。

税金はもっと前向きな活動のために使われた方が良いでしょう。

 相続人等個人の怠慢で放置された特定空き家を「ただ取り壊すために」投入する税金と、特定空き家の発生を防ぐ活動に充てる税金とでは、税金の利用価値も違うと思いますが、いかがでしょう。

 現時点では、成年後見制度を理解したメンバーで専門家(ボランティア)チームを作って対応せざるを得ないでしょう。

しかし、誰かの善意だけに頼って成り立っている仕組みは継続しません。

継続する仕組みを作り上げるためには、まず誰かの働きが必要ですね(第1ステージ)。

そして、それを制度として取り上げようとする人につなぎます(第2ステージ)。

それに続く、第3ステージをイメージできる方とお話ししたい。

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